2021年9月1日 • 所要時間:約4分

すべての人に安全で快適な空間を

医療空間では、選択が平等性をもたらします

by Rod Vickroy

医療産業は過去10数年にわたって飛躍的な成長と順応を遂げてきました。患者の快適性やスタッフの休息スペースに焦点を当てたデザイン面での理解が深まり、効率化や治療のための新しいテクノロジーが導入されることにより、現在の医療施設の外観や雰囲気は大きく変わっています。

例えば、病気になったり具合の悪い人が、待つことが必要な場合でも長時間待合室で過ごすことはなくなってきています。遠隔医療や正確な患者ナビゲーション、事前登録、デジタルチェックイン、各自で部屋に移動するコミュニケーションテクノロジーなどの台頭によって、従来の医療機関の待合室は新しくパワフルな目的を担うようになりつつあります。 

具合の悪い患者たちのために見事に構成された患者向け駐車場、トリアージ(重症度判定検査)、診療現場へ続く安全な通路の登場は、現在の公共空間が患者、ケアパートナー、一般コミュニティの領域と見なされていることを意味します。コミュニティエリアやトランジションスペースといった新しい用語は、従来の待合スペースの目的をより正確に表し、患者がサービスを受けている間に人々が意義ある時間を過ごすことができる場所を指すために使用されています。 

新しい待合室 
医療現場が選択的な手術(待機手術)や急を要さない予約に再び対応できるようになると、医療スタッフと患者の安全を守る対策は、待合室やトランジションスペースでの体験から始まります。こうした医療現場の空間は、患者や家族、介護士、医療従事者、スタッフのサポートを目的として設計する必要があります。  

安全な収容施設、快適なシーティング、心地よい空間を作り出すアメニティなどは、医療体験全体を向上します。空間を、利用する人々全員の安全と快適さにしっかりと配慮して設計する必要があるのです。しかし患者の快適さは、単に柔らかい椅子の提供にとどまりません。空間全体が、自然光やバイオフィリックな要素を組み込むことで、患者のウェルビーイングと体験にプラスの影響をもたらす可能性を秘めています。ビジター向けに居心地の良い雰囲気を生み出すため、通常トランジションスペースには飲み物や軽食、Wi-Fiアクセスなどが提供されています。

インクルーシブな医療デザイン 
医療空間において選択は均衡性を促進し、快適なシーティングをより多く提供することができます。広々と空いたシーティング間隔、アームレスト付きの椅子を採用したデザインなど、味気ないシーティングが並べられた待合室は過去のものとなりつつあります。先進的な医療空間は、選択とアクセシビリティに配慮してデザインされています。 

社会的にインクルーシブな医療空間を生み出すことは、あらゆる年齢と能力を持った人々を受け入れるために発展するオールインクルーシブデザインプロセスです。社会的にインクルーシブな建築デザインとは、人々の様々なニーズに配慮した設計のことを指し、例として館内案内サポート(適切なサインや表示など)、キッズスペース、体格が大きい方(肥満の方)用の入院施設、車椅子のアクセシビリティ、介助またはセラピー動物用の空間、休憩やリラクゼーションのためのアウトドアスペース、自動ドア、モバイルデバイス用の充電ステーション、ジェンダーニュートラルのお手洗いなどが挙げられます。 

さまざまな選択肢
 
建築家とデザイナーは、ビジターが心から満足できるような公共空間とコミュニティスペース体験の創出に取り組んでいます。ここでの最優先事項は、人々の施設内での時間の過ごし方に幅広い選択肢を提供することです。ウェルビーイング、自然へのアクセス、自然光、アウトドアスペース、無料または手軽なヘルシースナックオプション、そして様々なタイプのシーティングと姿勢の実現を重視した取り組みが、医療施設での体験を向上しています。

医療施設内のコミュニティスペースは、コーヒーを飲んだり、休憩や交流に最適な空間であるだけではなく、作業を行う優れたサードプレイスでもあります。コミュニティスペース特有のホスピタリティと快適さを生み出す雰囲気が、この空間で過ごす時間をよりリラックスすることができる時間、そしてより生産的で意義のある時間へと導きます。実際にWi-Fiや充電ステーション、テーブルなどで充実させたコミュニティ重視の医療施設空間は、待ち時間に作業をする上で最適な場所であり、患者や介護士の日々のニーズをより良く満たしています。

コミュニティを反映する 
医療施設には、周りのコミュニティを反映したあらゆる年齢、性別、体格、身体的能力の人々が訪れます。患者や介護士がストレスや不安を感じることはよくあります。そのため、医療施設においては人々ができるだけ安心して快適に過ごせるデザインとレイアウトを実現することが非常に大事です。 

医療施設デザイン内での公平性とは、利用者が個人にとって最も快適なシーティングタイプ、場所、プライバシーレベル、姿勢を選択できることです。大半の人々は、選択肢を与えられた際に空間内で自分に最も合う場所を見つけることができます。これが、医療施設内の待合スペースやトランジションエリアといったソーシャルスペース内の空間づくりが、デザイナーの手に委ねられている理由の1つです。人々、空間、空間全体の目的を理解することで、利用者の体験と全体的な満足度は飛躍的に向上します。

個人の安全を考慮する 
人々は選択肢と快適さを求めている一方で、自身や家族の安全性を望んでいます。清潔さ、適切な実質性、外部からの衛生管理を理解することは、医療施設内の安全面の重要性を強化します。ソーシャルディスタンスによる安全対策、プライバシーが保たれた待ち時間、あるいは家族全員が1つの空間に滞在するという選択肢などは、現在医療施設内でかつてないほど必要不可欠なものとなっています。 

医療施設内のコミュニティスペースは、空間デザインがその空間を最終的に使用する人々を体現した際、最も効果的なものとなります。適切なシーティング構成、ラウンジエリア、プライベートルーム、小さなスペース、自然光や自然へのアクセスなどが、居心地良く公平性に優れた医療環境を生み出すことができます。

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