2024年5月28日 • 所要時間:約5分

親しみやすさ:脳の多様性をサポートするワークプレイス

Victor Bourdariat氏との対談

by Alex Przybyla

誰もがチームの一員となれるワークプレイスづくり

脳に多様性を持つ人々にとって、オフィスでの体験は困難を感じる場面が多くあります。「仕事…それ自体が、脳に多様性を持つ皆さんが直面する多くの課題の原因となっています」と、執筆しているのは、Jenara Nerenberg氏です(著書:Divergent Mind: Thriving in a World That Wasn’t Designed for You)。

ヘイワースの目標はとてもシンプル。私たちが目指すのは、誰もが発展を遂げ、よく働くことができるような空間づくりです。脳に多様性を持つ人々にとって、それはどんな空間を指すのでしょうか?

ヘイワースヨーロッパ製品開発チームのリードデザイナーであるVictor Bourdariat氏は、脳に多様性を持つ人々のためのインクルーシブな空間は、親しみやすさと帰属意識を生み出すことから始まると確信しています。「ワークプレイスには、誰にでも居場所があります。オフィスにいる全員が、企業の一員であるということを感じられるべきなのです」とVictor氏は述べています。

脳の多様性とワークプレイス内の帰属意識に関する研究のために、Victor氏とヘイワースUKはチェルシー・カレッジ・オブ・アーツ(UAL)とコラボレーションを展開しました。2024年春学期課程で展開されたこの研究は、クラーケンウェル・デザイン・ウィークイベント、Breaking Barriersで最高潮に達しました。

 

チェルシー・カレッジ・オブ・アーツとの実りあるコラボレーション

商品・家具デザイン学部の優等学士課程で学ぶ才能あふれる13名の学生が、音響や空間分割、バイオフィリアといったワークプレイステーマの中で、脳の多様性(ニューロダイバーシティ)を研究・調査しました。学生たちは、英国業界標準や現場で培われたVictor氏の専門性、広範囲にわたる彼自身の研究を活用して、脳に多様性を持つ人々のワークプレイス体験を向上することができる製品を概念化しました。

Victor氏は提出されたプロジェクトから、ヘイワースロンドンのクラーケンウェル・デザイン・ウィーク2024の幕開けを飾る「Breaking Barriers: Championing Neurodiversity in Office Design」で発表する4つの最終選考アイデアを選びました。以下では、後にヘイワース・デザインアワードを獲得する作品を含む、選出された4つのプロジェクトをご紹介します。 

現代のデザイン学生が、脳に多様性を持つ人々のために描くインクルーシブなワークプレイスデザインにぜひご注目ください。

異なる視点から考えられた親しみやすさ

Breaking Barriersで展示された4つのプロジェクトは、空間分割や卓上プランター、適度な重みがある布張りクッション、会話を促進するデザインなど多岐にわたりましたが、Victor氏はこれらを統合するコアコンセプトを発見していました。

「4つの作品を同時に見比べた時、用いた表現やアプローチはそれぞれ異なっていましたが、どれも同じテーマを語っていることに気が付きました。4つの作品すべてが取り上げていたのは、親しみやすさだったのです」とVictor氏は語ります。

「親しみやすさは、帰属意識を生み出す出発点となります。製品や空間が従業員に親しみやすさをもたらすことができれば、従業員は安心を得ることができ、居心地の良さを感じられるようになるだけではなく、チームの一員であるということを体感できるようになります。なぜなら自身を認識できるようになるからで、周囲の環境へと自身を投影するようになるからです。これは、帰属意識の定義をよく表しているように思います。空間や製品へも自身を投影することができる場所、それが帰属意識を感じられる場所なのです」とVictor氏は続けています。

 

「Zenimals」Marie-Charlotte Roy作

Zenimalsは、程よい重みのある布張りのクッションで、中身には米を使用しています。ご自宅にある程よく重たいブランケットのように、重みのあるクッションは腕に抱えることによって不安を和らげることができます。Zenimalsはコンパクトであるため、作業場所を移動する際にどこへでも気軽に持ち運ぶことができます。

脳に多様性を持つ人々のためにデザインする際には、多様なカラーや質感をデザインに取り入れることが重要です。カラーや質感に極めて敏感な方がいる一方で、一般的な反応を得るためには通常より多くのインプットが必要となる方もいます。

Zenimalsは、鮮やかでエネルギッシュなものから、穏やかさや静けさを彷彿とさせるようなものまで、多様なカラーとパターンを展開しています。質感も豊富で、なめらかなベルベットやポリエステルを始め、反発性のあるウールや、チャンキーなブークレなど幅広い種類があります。

「Terra Scape」Isabel Ogunjuyigbe作

Victor氏は、Terra Scapeを「単なるプランターを超えたプランター」と表現しています。Terra Scapeは、居心地の良さや親しみやすさといった効果をもたらす自然を、より近くで感じられるようにする作品です。また、定期的な植物の管理は、通常の業務からちょっとした息抜きをする機会を提供してくれます。 

「森や林の中を歩くと、心が落ち着き穏やかになるのを感じることができると思います。これはその環境が自然のものであるからです」とVictor氏は語り、次のように続けています。「理論付ける必要はないのです。木々があなたを囲むように立っている…それだけで理由は明白です。」

Terra Scapeは幅広い仕上げを展開することで、ユーザーが高刺激と低刺激のカラーを自由に選ぶことができるようになっています。  

「Conversation Enabler」Alicia Hackett作

脳に多様性を持つ人々にとって、話しかけたり、会話を始めることはとりわけ難しく感じられます。(これは、職場特有の言葉遣いに自信がなかったり、苦手意識を持っていたりする人たちにも当てはまります。)

Victor氏は、作品Conversation Enablerを彫刻的デザインの「オープンライブラリ」と表現しています。脳に多様性を持つ人々は、「他の人と変わらないほど社交的である」とVictor氏は語ります。この作品は、せっかくの交流の機会を妨げかねない、会話やコミュニケーションにおける障壁を軽減することを目指しています。

Conversation Enablerは、個人にとって意味があるものや大切なものをオフィスに持ち寄り、会話のきっかけとして飾ることを促すものです。具体的には、犬好きの人は子犬の置物、新しいティーセレクション、お気に入りのアニメのアクションキャラクターの置物、さらには従業員たちが少しずつ協力することで青々と育つ(ことを期待する)植物などが挙げられます。

親しみが感じられるこれらの物は、会話が始まるショートカットとなります。こうしたつながりの機会は、回数や時を重ねることで、脳に多様性を持つ人もそうではない人も、ワークプレイス内でのコミュニティ・チーム意識をしっかりと築くことができます。「インクルーシブデザインや包括性を取り上げる時、私たちが目指さなければいけないのは、それが誰もが例外なく含まれるものなのです」とVictor氏は述べています。 

「Water Lilies」Punpun Phophientong作

Water Liliesは、心を落ち着かせるパターンや素材、カラーに関する広範囲の研究・調査によって実現した、空間用の仕切りです。この仕切りは空間に自然な静けさをもたらすだけではなく、集中を妨げるような高周波雑音を軽減することができます。 

音響性は、すべての人にとってより良い空間を実現する際に重要となる要素です。Leesmanによると、大半の人はオフィス内の雑音レベルに不満を抱いていることが分かっています。またJenara Nerenberg氏は、自身の著書『Divergent Mind』内で「音に関するテーマは(彼女の研究内で)たびたび取り上げられるもの」だと述べ、次のようにも語っています。「脳に多様性を持つ皆さんは、他の人々と比べ、音による影響に著しく敏感です。私たちの日々の体験の中で、聴覚が果たす役割の大きさは極めて甚大なのです。」  

空間を仕切るWater Liliesは、BuzziSpaceのアコースティックBuzziFeltを使用して制作されました。アップサイクルされたプラスチックペットボトルを100%使用したBuzziFeltは、空間の仕切りとして活用すると、「会話やタイプ音、電話の着信音」といった「高周波音」を吸収します。Water Liliesは、フロア全体の音響バランスを整えるだけではなく、視覚的なプライバシーとともに穏やかな雰囲気を実現することができます。 

Water Liliesは「自然の力」をもたらすことができるとVictor氏は述べます。この作品のパターンは「親しみ」を感じさせるものでありながら、自然を彷彿とさせるビジュアルは控えめに表現されています。仕切りとして空間の境目を定義する中で、このさりげなさが穏やかで静かな雰囲気を生み出しています。穏やかで柔らかなコンセプトは、見る人が自由に解釈できるような余白を生み出しています。  

厳選された4つのプロジェクトの中から、ヘイワース・デザインアワードの受賞作品としてVictor氏が選んだのは、Water Liliesでした。

次の目標

「引き続きヘイワースは、ニューロダイバーシティというテーマを深く掘り下げていきます」とVictor氏は語ります。「脳の形が無限にある中では、正しい答えも誤った答えも存在しません…一部の人々にとっては当然のように思えることが、他の人にも当てはまるとは限りません。だからこそ私たちは幅広い種類のソリューションを実現させ、提供する必要があるのです。脳の多様性は無限に存在しているわけですからね。」

「すべてに応えるためには、多様性を提供する以外、他に方法はありません」と語るVictor氏。

今後の展開をたずねた時、Victor氏は「デザイン学校との連携は絶対に続けていきたいですね。学校にはたくさんの創造性があふれています。私たちには未来を担うデザイナーたちを導き、現場からのフィードバックを提供するための経験と知識がありますから」と語っています。

私たちの未来、それはニューロダイバーシティです。Breaking Barriersは、インクルーシブデザインの未来の体現を試みています。そして学生たちのプロジェクトの成果を見ても、その未来が明るいことは明らかです。

チェルシー・カレッジ・オブ・アーツも、Victor氏と同じ思いを共有しています。「今回のヘイワースとのコラボレーションでは、学生たちがそれぞれの研究を広く展開し、現実の状況や環境に応えるための機会を提供することができたおかげで、学生たちにとって非常に価値ある機会となりました」と語るのは、商品・家具デザイン学部学士課程2年、主任・上級講師を務めるFabiane Lee-Perrella氏です。「今回の機会は、実践的な経験内における学生たちの知識を構築し、彼らが真のニーズに応えるためにデザインできる環境を育むというチェルシー・カレッジ・オブ・アーツ 商品・家具デザイン学部学士課程の目標と見事に響き合う、素晴らしいものでした。」

Breaking Barriersのようなコラボレーションは、シェアスペース内での包括性をより良いものへと導く際に重要なステップとなります。「脳に多様性を持つ従業員のためのインクルーシブなワークプレイス構築というプロジェクトの目標は、私たちのビジョンと一致しています」と語るFabiane氏。「このコラボレーションを通して、私たちは学生たちがより意義ある方法で自身を専門的に位置づけることができるよう、インスピレーションをもたらすことができました。」

私たちの未来、それはニューロダイバーシティです。Breaking Barriersは、インクルーシブデザインの発展を体現するイベントとなりました。学生たちのプロジェクトの成果を見ても、インクルーシブデザインの未来が明るいことは明らかです。

タグ:

おすすめの記事