2022年8月9日 • 所要時間:約6分
自然を取り入れてデザインすることが、新しいデザイン標準に
by Kamilia Dzulkifli
人類が何世紀にもわたって大自然に頼ってきた理由を考えたことがありますか?また、現在ほど自然に頼るようになると想像したことはありますか? 問題や課題が生じた時、私たちは周囲の自然環境から答えを見つけ出したり、少なくとも不確定な状況に対応するために自らを導こうとする傾向があります。これは、COVID-19パンデミック後にバイオフィリアやバイオフィリックデザインについて多く耳にした理由であり、これらがオフィス回帰する人々に向けて空間に心地よさとインスピレーションをもたらす仕組みが多く取り上げられた理由です。 しかし、バイオフィリックデザインとはいったいどのようなものを指すのでしょうか? そしてそのデザインをワークプレイス内で実現するにはどうすればよいのでしょうか?
バイオフィリアは、グリーンを取り入れたり、日光や新鮮な空気といった自然の要素を活用するなど、簡単な行動を通して実現することができます。バイオフィリックデザインの考え方は以前から存在しており、明確にこの考えが認識されたのは1980年代にまで遡ります。この考えを説いたのは生物学者であり自然主義者のエドワード・O・ウィルソンで、彼は「人間と自然とのつながりを取り戻す」重要性を重視した新しい学派を開拓した人物です。
バイオフィリア仮説
エドワード・O・ウィルソンが1993年に執筆したバイオフィリア仮説は、どういったバイオフィリックデザインが生物学的多様性を持ち、単に物理的形状に留まらないものとなるのか、そして私たちの感覚に訴えかけ、個々の感情やウェルビーイングに深いつながりをもたらすバイオフィリックデザインとはどのようなものか、複数の論点において強力な議論を提唱しました。原理は具体的で、あらゆる規模や異なる種類の空間(外観とインテリアの両方で)実現が可能なものです。
デザイン的に美しく、空間を利用する人にとって機能的なスペースを生み出すことがすべてのデザイナーにとっての最優先事項である一方で、さらに重要な点は、各空間内に意味ある方向性と概念を捉えることです。
建築やデザインといった大きな枠組みの中で、特に都市環境においては、大自然は遠い存在であり続けていると言えるでしょう。この状況を受けて建築家は、自然と人工的環境を上手く組み合わせる方法を追求し、両者のより強いつながりの構築を目指すようになりました。そして研究の立場からは、2名の卓越した建築家である フランク・ロイド・ライトとアントニオ・ガウディの作品を観察することができます。両者とも、バイオフィリックデザインの原則をいち早く作品に取り入れたことが評価されました。
より多くの人がワークプレイスに戻るようになり、私たちはバイオフィリック要素の重要性をより強く認識するようになりました。雇用主は従業員のためにオフィス環境の調査・向上に積極的に取り組み、新しい概念を生み出して、バイオフィリアをワークプレイス内へと統合するパンデミック後の新しい標準の創造を目指しています。適切な距離、分離、機敏な作業環境を実現するために複数の要素はすでに導入されています。一方で、こうした要素は従業員のメンタルヘルスやウェルビーイングをサポートし、メリットをもたらすものです。言い換えると、バイオフィリックデザインはデザイナーや意思決定者にとって新しい環境を生み出す際に重要な要素であり展望なのです。 しかし、バイオフィリックデザインは必ずしも大事業として取り組む必要はありません。社会生態学者であるスティーヴン・ケラートの6原理に倣い、企業は環境や利用者に対してプラスの影響をもたらす小さな変化から取り組み始めることが可能です。バイオフィリックデザイン原理には以下が含まれます: 1. 環境に関する特徴 2. 光と空間 3. 自然な形と形状 4. 自然なパターンとプロセス 5. 空間をベースとしたつながり 6. 人間と自然の発展したつながり ワークプレイス内でバイオフィリアを取り入れ始める際に、取り掛かるポイントとして考慮したいのが原理の最初の3つです。緑を取り入れ、日光や自然換気を有効活用し、空間内に水要素をプラスすることで、オフィス内に自然が持つ重要な要素の一部を取り入れることができます。
パンデミック前に設計された空間は、これからの働き方に適応できなくなるかもしれません。ヘイワースのバーチャルサミットの10/10をダウンロードして、さらに詳しい内容をご覧ください。
シンプルなアプローチから取り入れ始めたいと考えている企業に向けた容易な実行方法として、自然のイメージや画像の使用、自然からインスパイアされた形、色、形状、パターンを用いることで、「自然な形と形状の原則」を簡単に取り入れることができます。一方でデザイナーの専門性を用いた方法では、より徹底的なアプローチをとることができます。空間や素材を活用するための専門的な背景や知識を駆使し、デザイナーは自然要素、質感、カラーを既存の室内環境内に適応させることができます。
天然素材の使用はワークプレイス内のサステナブルな姿勢を促進するだけではなく、社会的環境にも影響をもたらすことができます。自然との触れ合いは私たちの感情に働きかけ、健康やウェルビーイングを促進することができ、自然を取り入れた環境内にいる人々の心を落ち着かせ、ストレスを軽減することができます。 ソーシャルサステナビリティは、空間デザインのデジタル時代内において重要な役割を果たし、自然要素のデジタル化における可能性を切り開いています。そしてこれは、デジタル時代である現在であっても、自然が私たちにとって最も重要な存在であるということを証明しているのです。
ここ数年のパンデミックに立ち向かっている時でさえ、インテリアデザイナーはワークプレイスデザインについて思案し続けてきました。現実離れした空間がデジタル世界で数多く生まれ、物理的な空間を取って代わるようになりました。こうした空間にも自然は実物そっくりな形や夢のように解釈された形で取り入れられましたが、自然そのものと自然とのつながりを求める私たちの欲求を強調するものとなりました。例えば、ヘイワースヨーロッパの「場所を問わない仕事の仕方」バーチャルスペースは、バイオフィリックデザイン原則とサステナビリティアプローチを用いてデジタルにデザインされたサードスペースを展開しています。室内環境に用いられた様々な天然素材から、Oceanicといったサステナブルな素材選択に至るまで、自然の本質に着想を得たこれらの空間は、人々の「work beautifully(美しく、最適な状態で作業すること)」を実現できる真に最適な場所です。
古いデザインはやがて再び新しいデザインとなる、とよく言いますが、自然からインスパイアされたデザインは決して古くなることはありません。確かに時は経過し、季節は移り変わっていきますが、アントニオ・ガウディの1930年代のマスターピースであるサグラダ・ファミリアが持つ生物学的インスピレーション溢れる魅力は、木のような形の柱、自然光により美しいカラーが生み出されるステンドグラスなどを特徴とする内装によって、現在も一切色褪せることなく存在しています。
バイオフィリックデザインは時の試練に耐え、これからもデザイナーや私たちの未来に影響をもたらし続ける存在です。原理への頼り方が伝統的か未来的かを問わず、自然は人類の目にとって主要な要素であり続け、私たちの生活、そして私たちの空間において核心を突く存在であり続けるでしょう。今日においては、バイオフィリックデザインはワークプレイスデザインの新しい標準として今まで以上に認識され、評価されるべき存在なのです。